この記事は、部門別・業務別の生成AI活用アイデアを、著者が思いつくままに挙げていく番外編です。本編のAI活用で企業が考えるべきことでは、ワークフローの再設計やKPI(成果を測る指標)の設定といった「仕組みの設計」を扱いました。こちらはその手前にある、「そもそも自社のどの業務で使えそうか」を見つけるための素材集という位置づけです。

はじめにお断りしておきます。ここで挙げるのはあくまで著者のアイデアであり、完成された導入手順ではありません。業種や組織規模、情報管理ルール、顧客との契約条件によって、使えるものと使えないものがあります。実践する際は、現場・管理職・情報システム・法務・経営層でしっかり議論したうえで、自社に合う形に設計し直してください。その前提で、「うちの部門ならどこから考えるか」を想像しながら眺めていただければと思います。

顧客と向き合う部門 ― 営業・カスタマーサポート

営業

営業は商談メモや提案書など「書く仕事」が多く、AIの使いどころを見つけやすい部門です。

  • 商談メモから提案骨子を作る
  • 顧客の発言を「課題」「要望」「懸念」「次回アクション」に分類する
  • 過去の失注理由を整理し、次回提案の改善点を出す
  • 既存顧客への追加提案の候補を洗い出す
  • 顧客別に提案のストーリーを組み立て、提案書の初稿を作る
  • 提案前に想定される反論を挙げさせる
  • メール文面を相手の温度感に合わせて調整する

注意点は、顧客名や商談金額、契約条件を会社が許可していない外部AIに入力しないこと、そしてAIの提案をそのまま顧客に出さないことです。最終的な提案の責任は、あくまで営業担当と上長が持ちます。

カスタマーサポート

サポート部門は、問い合わせという文字情報が毎日蓄積されるため、もともとAIと相性のよい領域です。

  • 問い合わせ内容を分類し、FAQ候補を生成する
  • 過去回答から類似ケースを探し、一次回答案を作る
  • クレームの温度感や、エスカレーション(上位者への引き継ぎ)の要否判断を補助させる
  • 応対履歴を要約し、顧客の不満の原因を分析する

AIが作った回答をそのまま送らない、重要なクレームは必ず人間が対応する、回答の根拠となる社内ナレッジ(蓄積された知識情報)を明確にしておく。この三つが守れないうちは、下書き支援にとどめるのが無難です。

会社を支える管理部門 ― 人事・総務、経理・財務

管理部門は「問い合わせ対応」と「定型文書づくり」に時間を取られがちです。この二つは、いずれもAIの得意分野と重なります。

人事・総務

  • 社内規程に関する問い合わせへの一次回答と、社内FAQの整備
  • 入社手続きの案内文や研修資料のたたき台作成
  • 面談メモの要約、社内アンケート自由記述の分類
  • 採用広報文の作成や、評価コメントの表現調整

この領域は個人情報・評価情報・候補者情報が絡みやすいため、会社が承認した環境で扱うことが前提になります。また、採用の可否や人事評価の判断そのものをAIに任せないという一線は、最初に決めておくべきです。

経理・財務

  • 経費精算ルールの問い合わせ対応
  • 仕訳(取引の帳簿記録)候補の作成
  • 予実差異(予算と実績の差)の要因整理
  • 月次決算資料の説明文や、会議向け財務サマリーのたたき台作成
  • 資金繰り説明資料のたたき台作成
  • 税理士への質問事項の整理

銀行情報・請求書・取引先情報を外部AIに入力しないことに加え、AIの仕訳案や財務説明をそのまま確定情報にしないことが重要です。会計・税務の判断には、専門家や責任者の確認を必ず挟みます。

専門判断を支える ― 法務・契約、データ分析・企画

専門性の高い部門では、AIを「判断の代行」ではなく「論点の洗い出し役」として使うのが基本線になります。

法務・契約

  • 契約書の論点洗い出しと、条項ごとのリスク整理
  • NDA(秘密保持契約)の確認観点の作成
  • 契約条件の比較表や、修正文案のたたき台作成
  • 契約書レビューを依頼する際の、背景説明の要約作成
  • 契約管理台帳の項目整理

契約書の原本や秘密保持対象の情報を外部AIに入力しないことが大前提です。AIの指摘は「見落とし防止のチェックリスト」として使い、法的判断としては扱わない。最終判断は法務担当者や弁護士、責任者が行います。

データ分析・企画

  • 分析テーマや仮説の壁打ち(考えを聞かせて整理すること)
  • SQLやPython(データ処理に使うプログラム)の作成補助
  • グラフから読み取れることの整理、追加で見るべき切り口の提案
  • 分析結果からの示唆候補出しと、経営会議向けの要約

忘れてはいけないのは、AIの示唆は仮説であって事実ではないという点です。データの定義や前提条件、数値の解釈は人間が確認する。ここをAI任せにしないことが、分析の信頼性を守ります。

仕組みをつくる部門 ― 情報システム、経営企画・新規事業

この二つの部門は、自分たちがAIを使うだけでなく、全社の使い方を設計する立場でもあります。まず自部門で小さく試しておくと、ルールづくりの議論が現実的になります。

情報システム

  • 社内問い合わせの一次回答とFAQ整備
  • 障害対応履歴の要約と手順書の作成
  • エラーログ(システムの動作記録)の読み解き補助
  • システム利用マニュアルの改善案出し
  • セキュリティ注意喚起文や、ベンダーへの問い合わせ文の作成

認証情報やAPIキー(システム同士をつなぐための鍵)、ネットワーク構成情報は外部AIに入力しないのが原則です。生成された手順書は必ず検証してから展開し、セキュリティに関わる判断をAIに委ねないようにします。

経営企画・新規事業

  • 市場調査の論点整理と、競合比較の観点作成
  • 新規事業アイデアの壁打ちと、リスク要因の洗い出し
  • 事業計画の構成案や、収益モデルのパターン出し
  • 経営会議資料のたたき台作成

AIが挙げる市場情報や統計は、出典を必ず確認してください。もっともらしい数字ほど危険です。将来予測をそのまま信じず、事業判断の責任は人間が持つ。この原則さえ守れば、検討の初速を上げる道具になり得ます。

現場業務・製造・店舗

デスクワーク以外の現場にも、記録と教育のまわりに使いどころがあります。

  • 作業手順書の整備と、新人向け教育資料の作成
  • ヒヤリハット報告(事故には至らなかった危険事例の報告)の分類
  • 日報の要約と、クレーム内容の傾向分析
  • 点検記録から異常の傾向を探す
  • 店舗別の改善案出しや、現場ナレッジのFAQ化

現場では、安全・品質・法令に関わる判断を責任者が確認するという線引きが何より重要です。もう一つの論点は、ベテランの暗黙知(言葉になっていない経験則)をどうやって文字や記録に変えるかです。ここが進むほど、AIは現場教育の心強い支えになっていきます。

まとめ ― アイデアの数より「成果に変える仕組み」

ここまで9つの部門で40を超えるアイデアを挙げました。眺めてみると分かるとおり、アイデア自体はいくらでも出せます。難しいのはその先です。

会社が使い方を示さなければ、従業員は個人の判断でAIを使い始め、シャドーAI(会社が把握していないAI利用)が広がります。かといって、アイデアを並べて自由に使わせるだけでは、利用料と時間ばかりが増えて成果につながりません。対象業務、使ってよいデータ、責任者、確認プロセス、KPI、教育、評価制度までを一つの仕組みとして設計して、はじめてアイデアは業務の成果に変わります。その設計の考え方は、冒頭で紹介した本編のコラムで扱っていますので、あわせてお読みいただければと思います。

DSB Consultingでは、AI活用の対象業務の選定から、情報管理ルールの整備、浮いた時間を成果に変換する仕組みづくりまでを支援しています。どの部門から手を付けるべきか、という整理の段階からでも構いません。無料相談をご利用ください。