CRM、マーケティングツール、会計ソフト、コミュニケーションツール——業務のデジタル化に伴い、多種多様なSaaSを利用する組織が増えています。便利な一方で、SaaSが増えるほど、データの所在・品質・セキュリティの管理が複雑になります。本記事では、SaaS利用が増える組織のデータガバナンス課題と、その対策を解説します。

SaaS増加がガバナンスを複雑にする

SaaS(クラウドサービス)は、手軽に導入でき、業務を効率化します。そのため、各部門がそれぞれ必要なSaaSを導入し、組織全体では多数のSaaSが使われる状態になりがちです。一つひとつは便利でも、全体で見るとデータがあちこちに散らばり、管理が難しくなります。

SaaSが増えるほど、「どこに、どんなデータがあるか」の把握が困難になり、セキュリティの管理も煩雑になります。SaaS時代には、従来とは異なるデータガバナンスの課題が生じるのです。これらの課題を理解し、対策することが重要です。

SaaS利用の4つのガバナンス課題

SaaS利用が増えると、次の4つの課題が生じます。

  • ① データの散在:各SaaSにデータが分散し、全体像の把握が困難になる。
  • ② シャドーIT:情報部門の承認なしに使われるSaaSが増え、管理外のデータが生まれる。
  • ③ ベンダーロックイン:SaaSに蓄積したデータが、サービス終了時に移行できないリスク。
  • ④ セキュリティ設定の不統一:SaaSごとにセキュリティ設定が異なり、管理が煩雑になる。

これらは、SaaSの利便性の裏側にあるリスクです。放置すると、データの管理が効かなくなり、思わぬトラブルにつながります。

とくに危険な「シャドーIT」

4つの課題の中でも、とくに注意すべきが②のシャドーITです。シャドーITとは、情報システム部門の把握・承認なしに、現場が勝手に導入・利用しているSaaSのことです。「便利だから」と現場が個別に契約し、会社の管理外でデータが扱われる状態です。

シャドーITが危険なのは、組織が把握していないところでデータが扱われ、セキュリティもガバナンスも効かないからです。重要なデータが、会社の知らないサービスに保存されているかもしれません。万一そのサービスで漏洩が起きても、会社は気づくことすらできません。シャドーITを放置せず、把握・管理下に置くことが、SaaS時代のガバナンスの重要課題です。クラウドサービスもデータ委託の一種です。外部委託しているデータのガバナンスをどう確保するかもあわせてご覧ください。

SaaS時代のガバナンス対策

これらの課題に対処するには、次の4つの対策が有効です。

  • ① 利用申請・承認プロセスの整備:新しいSaaSを導入する際の申請・承認の流れを定め、シャドーITを防ぐ。
  • ② 定期的なSaaS棚卸し:どんなSaaSが使われているかを定期的に把握する。
  • ③ データエクスポートの定期実施:主要SaaSからデータを定期的に書き出し、ロックインに備える。
  • ④ データフローの可視化:SaaS間のデータの流れを把握する。

これらを組み合わせることで、SaaS利用が多い環境でもガバナンスを維持できます。

「禁止」ではなく「管理」する

SaaSのガバナンスで陥りやすいのが、「リスクがあるから禁止する」という発想です。しかし、SaaSは業務効率化に大きく貢献するため、一律に禁止すれば、かえって業務が滞ったり、現場が隠れて使ったり(シャドーIT化)します。重要なのは、禁止ではなく適切に管理することです。

具体的には、SaaSの利用を認めつつ、申請・承認のプロセスを通すことで把握下に置きます。「使ってはいけない」ではなく「使うなら手続きを通す」という運用です。これにより、現場は必要なSaaSを使え、会社はデータの所在とセキュリティを管理できます。利便性とガバナンスを両立させるには、SaaSを敵視するのではなく、上手に管理する姿勢が求められます。AIツールの利用ルールづくりも同様の考え方です。AIツールを社内で安全に使うためのルールの作り方もあわせてご覧ください。

SaaS時代のガバナンス チェックリスト

  • 新しいSaaSの利用申請・承認プロセスがあるか
  • 定期的にSaaSの棚卸しをしているか
  • シャドーITを把握・管理下に置いているか
  • 主要SaaSからデータを定期的にエクスポートしているか
  • SaaS間のデータフローを可視化しているか
  • SaaSを禁止でなく管理する運用にしているか

SaaS連携でデータがつながる時代

近年は、複数のSaaSを連携させ、データを自動で流す使い方が一般的になっています。CRMの顧客データをマーケティングツールに連携する、会計ソフトのデータを分析ツールに送る——こうしたSaaS間のデータ連携は、業務を効率化する一方で、新たなガバナンス課題も生みます。

データが複数のSaaSを横断して流れると、「どのデータが、どこからどこへ、どう流れているか」が見えにくくなります。一つのSaaSの設定ミスが、連携先にまで影響することもあります。だからこそ、SaaS間のデータフローを可視化し、把握しておくことが重要です。どこでデータが生まれ、どう加工され、どこで使われるかを理解することで、品質やセキュリティの管理が可能になります。SaaS連携が進むほど、データの流れ全体を見渡す視点が求められます。

SaaS時代こそ「データの所在把握」が要

SaaS利用が増える時代のデータガバナンスで、最も基本となるのが「データの所在把握」です。どんなデータが、どのSaaSに、どんな状態であるかを把握できていなければ、品質管理もセキュリティ管理もできません。所在の把握は、すべての対策の前提になります。

SaaSが増え、データが散在するほど、この所在把握は難しくなります。だからこそ、定期的なSaaS棚卸しと、データフローの可視化が重要なのです。「うちのデータは、どこに、どれだけあるか」を組織として把握し続けること。これが、SaaS時代のデータガバナンスの土台です。便利なSaaSを活用しながらも、データの全体像を見失わない——この基本を押さえることが、複雑化する環境でガバナンスを保つ鍵になります。データの棚卸しの考え方はデータの所在不明問題——棚卸しの進め方もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. シャドーITをどう見つければよいですか?
A. 経費の精算記録やクレジットカードの明細から、契約されているSaaSを把握する方法があります。また、現場へのヒアリングで使っているツールを聞き出すことも有効です。まず実態を把握し、申請・承認のプロセスに乗せていきましょう。

Q. SaaSをすべて把握するのは大変では?
A. すべてを一度に把握しようとせず、まず重要なデータを扱うSaaSから優先的に把握しましょう。申請・承認プロセスを整えれば、今後導入されるSaaSは自動的に把握できます。既存分は棚卸しで段階的に把握します。

Q. ベンダーロックインはどう防ぎますか?
A. 契約時にデータのエクスポート(書き出し)が可能かを確認し、定期的にデータをエクスポートしておくことが有効です。サービス終了や乗り換えの際に、データを移行できる状態を保っておくことで、ロックインのリスクを減らせます。

Q. SaaSのセキュリティ設定はどう統一しますか?
A. 主要なSaaSについて、最低限満たすべきセキュリティ設定の基準を定めることが有効です。アクセス管理、二段階認証、データの取り扱いなどの基準を設け、各SaaSがそれを満たすよう設定を確認します。

Q. 現場が勝手にSaaSを使うのを防げますか?
A. 完全に防ぐのは難しいですが、申請・承認プロセスを使いやすくし、なぜ手続きが必要かを伝えることで、シャドーITを減らせます。「禁止」ではなく「手続きを通せば使える」という運用にすることが、現場の協力を得る鍵です。

まとめ

SaaS利用が増えると、データの散在・シャドーIT・ベンダーロックイン・セキュリティの不統一という課題が生じます。利用申請・承認プロセス、定期棚卸し、データエクスポート、データフローの可視化で対策しましょう。SaaSは禁止ではなく管理することで、利便性とガバナンスを両立できます。

DSB Consultingでは、SaaS時代のデータガバナンスを支援しています。相談したい方はデータガバナンス支援をご覧ください。