2026年9月3日、OpenAIのサム・アルトマン氏は、Axiosのインタビューで、次の世代のモデルは誰にとっても身の引き締まるものになる、そして今後は安全性の研究がどれだけ進むかによって出荷のペースが決まる、という趣旨のことを述べました。能力が許すより遅く出す、という宣言だと受け止められています(記事末尾の出典参照)。

同じ週に、自分は別のページを見ていました。Anthropicが公開しているモデル退役の一覧です。そこには、Claude Sonnet 4.5の退役が早ければ2026年9月29日、Haiku 4.5が10月15日、Opus 4.5が11月24日と書かれています。いずれも、1年前後前に出たモデルです。退役後は、そのモデルへの要求は失敗します。

この2つを並べると、AIの予算を組む人が置かれている状況が見えてきます。今使っているモデルは、思ったより早く消える。次に来るはずのモデルは、思ったより遅く来る。2027年度の予算は、この両方を前提に組む必要があります。この記事では、各社の退役ルールを比べ、路線バスのダイヤ改正にたとえて整理したうえで、経営が決める3行を示します。

この記事の要点:AIモデルには寿命がある。Anthropicは公開モデルの退役を最低60日前に通知し、OpenAIは一般提供モデルで最低6か月前。理由は新モデルのための計算資源の確保。一方で次世代は安全性を理由に遅れ得る。予算はモデル名で組まず、移行費を毎年の項目として持ち、効果は今あるモデルで見積もる。退役通知を受け取る担当と、使っているモデルの棚卸しを決める。

ダイヤ改正にたとえると

AIモデルは、路線バスに似ています。通勤の計画は、いま走っているバスを前提に立てます。ただしバス会社は、利用状況に応じてダイヤを改正します。廃止される路線は、2か月前に停留所に貼り紙が出る。新しい急行の開通は、安全確認のために遅れることがある。

通勤者ができることは決まっています。廃止の貼り紙を見落とさないこと、一つの路線に依存しない経路を持っておくこと、そして、まだ開通していない急行を前提に引っ越さないこと。AIの予算も、同じです。

各社の退役ルールを、1枚で比べる

いずれも各社の公開ドキュメントにもとづきます。日付や期間は変わるので、確認は執筆時点です。

Anthropic(Claude)OpenAIGoogle(Gemini API)
退役までの通知期間公開モデルは最低60日前に通知一般提供モデルは最低6か月前。特化型は3か月前。プレビュー版は2週間程度の場合ありモデルごとに異なる。停止日は最も早い可能性の日付として示す
通知の方法メールとドキュメントメールとドキュメント。大きな変更はブログでもドキュメント
退役の理由(公式の説明)新モデルの提供のために計算資源を確保するため記載なし記載なし
注意点Amazon BedrockとGoogle Cloud経由は別の退役スケジュール用途特化の派生モデルは通知が短い停止日は前倒しされない目安として読む

出典はいずれも記事末尾の各社公式ドキュメント(執筆時点で確認)。

表から読み取ることを3つに絞ります。第一に、通知から退役までの期間は、最短で2か月です。年度予算の途中で、使っているモデルが消えることは普通に起きます。第二に、Anthropicは退役の理由を、新モデルのための計算資源の確保だと明記しています。つまり、新しいモデルが出るたびに、古いモデルが消える構造です。第三に、クラウド経由(Bedrockなど)は別のスケジュールで動きます。同じClaudeでも、どこから使うかで寿命が違います。

なお、Anthropicは2025年11月に、公開したモデルの重みを自社の存続期間中は保存し、将来は選んだモデルを再公開することも検討する、と表明しています。ただし、それは研究や記録のための約束です。業務で使い続けられる保証とは別です。

早く消える側と、遅く来る側の、両方に備える

予算の失敗は、2つの向きで起きます。

一つは、早く消える側の失敗です。予算書に特定のモデル名を書き、そのモデルで検証した効果を前提に、年度いっぱいの計画を組む。年度の途中で退役の通知が来て、移行と再検証の工数が予算に入っていない。これは、ダイヤ改正の貼り紙を見ていなかった失敗です。

もう一つは、遅く来る側の失敗です。次の世代のモデルが出れば精度が上がるはずだ、という見込みで、いまのモデルでは成り立たない投資を承認する。アルトマン氏の発言は、この見込みが外れる可能性を、当のベンダーのトップが公言した、ということです。まだ開通していない急行を前提に引っ越す失敗です。

自分の見立てを書いておくと、日本企業で多いのは後者です。AIの効果を、いまのモデルで実測せずに、次のモデルへの期待で埋める提案書を、よく見ます。以前、AIへの投資判断の記事で、効果は実測で見るべきだと書きました。その考えは、今回の発言でむしろ強まりました。

経営が決めること。3行で足ります

AI予算の起案は情報システム部門や各事業部から上がってきます。承認する側が、次の3行を先に渡しておくと、起案の質が変わります。

  1. 予算にモデル名を書かせない。代わりに、移行費を毎年の項目として持つ。モデルの入れ替えは年に1〜2回起きる前提で、検証と再テストの工数を最初から入れる。特定モデルに依存しない構成(呼び出し口を1か所にまとめる、複数の提供元を使えるようにする)を条件にする。
  2. 効果は、いまあるモデルで見積もる。次世代の性能を前提にした投資は承認しない。いまのモデルで効果が出ない案件は、モデルが良くなっても出ないことが多い。
  3. 退役通知を受け取る担当と、使っているモデルの棚卸しを決める。ベンダーの通知はメールで来る。誰が読み、誰に回すかを決める。四半期に一度、どの業務がどのモデルを使っているかを一覧にする。Anthropicの管理画面には、使用モデル別の利用状況を書き出す機能があると公式ドキュメントにあります。

3行のうち、いちばん軽くて、いちばん抜けているのは3です。退役の通知は、契約の担当者のメールに届いて、そこで止まります。使っている現場に届かないまま退役日を迎えるのは、貼り紙が出ていたのに誰も停留所を見ていなかった、という話です。

結び

AIの予算を組む難しさは、金額ではありません。前提が動くことです。ダイヤは改正され、急行は遅れる。それでも通勤はできます。

貼り紙を見る係を決め、経路を一つに絞らず、開通前の急行を当てにしない。2027年度の予算に要るのは、大きな金額より、この3つの余白です。

出典(一次情報)

この記事の各社のモデル退役に関する記述は、以下の公開情報にもとづいています(いずれも執筆時点で確認)。

上記は執筆時点の公開情報です。退役日と通知期間は各社の判断で変わります。予算の判断は、必ず最新の公式情報と契約内容をご確認ください。