この記事の要点:PythonもAWSも知らない社員が、Claude Desktopに日本語で頼むだけで分析を実行し、Notebook(コードと結果を1つにまとめた分析ノート)やレポートまで成果物として自動保存できるか——実際にPoC(概念実証)で確かめました。4つの検証の結果、当初の「ClaudeがNotebookを直接操作する」構想は成立せず、鍵はMCP(AIと外部システムをつなぐ共通規格)だと分かりました。そして最大の学びは、目指すべきは「分析結果を返すAI」ではなく「分析資産を蓄積し続ける企業基盤」だということです(仕様は変わりやすいため、執筆時点=2026年7月の情報にもとづきます)。

はじめに ― チャットの答えは、翌週には消えている

「AIに聞けば分析してくれる」時代になっても、企業のデータ分析には根深い課題が残っています。Pythonが書けないと本格的な分析はできない。SageMaker Studio(AWSが提供する分析作業環境)やJupyterLab(ブラウザで動く分析ツール)の操作は、分析担当者にしか扱えない。そして何より、チャットで得た分析結果はその場で消えてしまい、会社の資産として残らない。翌週、別の担当者が同じ質問をすれば、また一から同じ分析をやり直しです。

そこで今回、次の仕組みが実現できるかをPoCで検証しました。

  • 一般社員が、Claude Desktopに日本語で分析を依頼する
  • 裏側でPythonが実行され、分析結果が返ってくる
  • 同時に、Notebook・Pythonプログラム・レポート・グラフが成果物として自動保存される

結果だけ返すのではなく、「分析の過程」ごと資産として残す。これが今回のPoCの狙いです。

出発点の仮説 ― 「ClaudeがNotebookを直接触ればいい」

最初に立てた仮説はシンプルでした。Claude DesktopからSageMaker Studioに直接つなぎ、ClaudeがNotebookを開いて編集・実行すればよいのではないか、というものです。

先に結論を言うと、この仮説は成立しませんでした。ただし、その確認の過程で得られた発見が、最終的な設計の土台になりました。4つの検証を順に見ていきます。

4つの検証で分かったこと

検証1:SageMaker Studioの中でClaude Codeは動くか → 動いた

まず、SageMaker Studioの環境内にClaude Code(コマンド操作型のClaude)を導入し、Amazon Bedrock(AWS上でClaudeなどのAIモデルを利用できるサービス)に接続して動かしました。結果は良好で、Pythonの実行、Notebookの生成・編集、さらに「実行済みの状態のNotebook」の生成まで、すべて成功しました。

ここで得られた気づきが、後の方針を決めます。Notebookは「分析を実行するための環境」というより、「手順と結果が1つに記録された分析資産」として価値が高いということです。実行はどこで行ってもよい。大事なのは、再現可能な形で成果物が残ることでした。

一方で、率直な感想もありました。この構成で恩恵を受けられるのは、SageMaker Studioに入って作業できる人——つまり分析担当者だけです。Claude Codeは優秀ですが、このやり方ではコード作成のサポート役にとどまり、「一般社員が日本語で頼むだけ」という目指す姿には届かない、と感じました。ならば、Studioの中ではなく外から操作する道を探るしかありません。

検証2:AWS CLIからSageMakerを操作できるか → 操作できた

次に、コマンドライン(AWS CLI)からSageMakerの管理操作を試しました。認証には「aws login」——2025年11月に追加された、ブラウザの管理画面へのログインだけでCLIの認証が完了する新しい方式——を使い、環境情報(Domain・Space)の取得や設定変更まで問題なく行えました。SageMakerの「管理」は、APIやCLIから十分に操作できることが確認できました。

この結果から、次の仮説が生まれます。Claude DesktopにAWS CLIを操作させれば、目指す姿に近づけるのではないか。CLIで環境の管理までできるなら、あとはNotebookの中身まで手が届くかどうか——それを確かめたのが次の検証です。

検証3:Notebookの中身をAPIから直接操作できるか → 公式にはできない

ここが仮説の分かれ目でした。AWSの公式APIやCLIで操作できるのは、Domain・Space・Appといった「環境の箱」までです。Notebookの中身(セル)を編集・実行するための公式API/CLIは存在しませんでした

厳密には、Jupyter標準の仕組みを使った回避策や、Notebookを丸ごとジョブとして実行する機能はあります。しかし「ClaudeがNotebookのセルを直接いじる」という設計は、公式にサポートされた道ではなく、本命にはなりにくいと判断しました。

検証4:Remote Accessは使えるか → 用途が違った

SageMakerのSpaceには「Remote Access」という接続機能があり、有効化にも成功しました。ただし調べてみると、これはVS Codeなどのエディタから開発者が接続するための公式機能であり、Claude Desktopをつなぐための入り口ではありませんでした。ここでも「直接つなぐ」道は閉じられます。

検証確かめたこと結果
検証1Studio内でClaude Codeは動くか成功。Notebookは「実行環境」より「分析資産」
検証2CLIからSageMakerを管理操作できるか成功。管理APIは十分に操作可能
検証3Notebookのセルを公式APIで操作できるか不可。公式API/CLIは環境の箱まで
検証4Remote AccessでClaudeをつなげるか有効化は成功。ただしVS Code等向けの機能

なぜMCPにたどり着いたのか

検証3と4で「Claude DesktopからSageMakerへ直接つなぐ」道が閉じたとき、改めて構図を整理しました。Claudeは言葉を扱うAI(LLM)であり、SageMakerはPythonの実行基盤です。性質の異なる両者の間には、依頼を「実行できる形」に変換して取り次ぐ仲介役が必要——そう考えると、答えは自然にMCPに行き着きました。

MCPは、AIと外部システムをつなぐための共通規格です。電源プラグの形が統一されているように、「AIから道具への接続口」を統一する仕組みだと考えてください。MCPサーバーという取り次ぎ役を1つ立てれば、ClaudeはSageMakerに限らず、データベースでもファイル保管庫でも、同じ作法でつなげます。

もう1つの発見は、この構成が画面の種類を選ばないことです。当初は「Cowork(非エンジニア向けのエージェント機能)では難しいのでは」と考えていましたが、調べるとCoworkもMCPを利用できます。本質はどの画面を使うかではなくMCPであり、Chat・Cowork・Codeは用途に応じて選べばよい、という整理になりました。

最終アーキテクチャ ― 全体像

たどり着いた構成が次の図です。企業利用を想定し、AIへの通信はゲートウェイ(社内の出入口サーバー)を経由してAmazon Bedrockに向かう形にしています。Claude DesktopをBedrock経由で使う構成は、現在は公式にサポートされています。

一般社員 日本語で「分析して」と依頼 Claude Desktop 一般社員向けのUI(窓口)。Chat / Cowork / Code 依頼は下り、答えは上る ゲートウェイ(社内の出入口) Amazon Bedrock 上の Claude ★ 社員が使うClaudeの本体・頭脳はここ(AWS上) 依頼を理解し「どの道具を使うか」を判断して指示を返す 道具を呼び出し、結果が戻る MCP(AIと社内システムの共通接続口) SageMakerやデータ基盤(Snowflake・Redshift等)を同じ作法で取り次ぐ SageMaker / データ基盤 Pythonで分析を実行し、結果と成果物を生成 成果物:Notebook / Python / レポート / CSV / グラフ
図:最終アーキテクチャ。一般社員は窓口アプリ(Claude Desktop)から頼むだけで、実際に考えるClaudeはゲートウェイの先のBedrock上にいる。Claudeの判断に従ってMCP経由でSageMakerやデータ基盤が動き、結果が上流へ戻って成果物として残る。
※ MCPを「使う」と判断するのはBedrock上のClaude。実際にMCPを呼び出す操作は、その指示を受けて手元の窓口アプリ(Claude Desktop)が代行する。

ポイントは、Claudeが「賢い頭脳」に徹し、実行はMCPの先のSageMakerが担う分業です。依頼した本人はPythonもAWSも意識しませんが、裏側では毎回、Notebook・Pythonプログラム・レポート・CSV・グラフが成果物として保存されます。

補足:MCPを使うと、データは社外に出ないのか
MCPと聞くと「データがどこか外部へ送られるのでは」と不安になるかもしれません。この構成で業務データ(依頼文・取得したデータ・分析結果)が通るのは、会社のPC上のClaude Desktopと、自社契約のAWS(Bedrock・SageMaker・S3)だけです。BedrockはAWSの中でClaudeを動かす仕組みのため、Anthropicを含む第三者のサーバーにデータが渡ることはなく、AIの学習に使われることもありません。そのうえで、この境界を保つために押さえる点は3つです。
  • MCPサーバーは自前で持つ——手元のPCか自社のAWS内で動かす。外部サービスのクラウドを経由する接続方式を使うと、この境界を越える
  • 生データを会話に載せない——分析と保存はSageMaker側で完結させ、Claudeへは要約と保存先だけを返す設計にすれば、生データはAWSの外に出ない
  • 経路まで閉じたいなら回線を設計する——PCとAWSの間は暗号化されているが、経路は通常インターネットを通る。閉域が要件ならVPNや専用線を検討する

用途別の使い分け

すべての依頼が重い分析基盤を通る必要はありません。用途に応じて経路を分けます。

用途経路
軽い質問Claudeのみで回答「この指標の意味は?」
データ取得Claude → MCP → データ基盤(Snowflake・Redshiftなど)「先月の売上データを出して」
新規分析Claude → MCP → SageMaker「地域別の傾向を分析して」→ Python・Notebook生成、成果物保存
定型分析既存Notebookを更新 → 再実行「先月版の分析を今月のデータで」

特に4行目の「定型分析」に注目してください。過去の成果物(Notebook)が残っているからこそ、「前回と同じ分析を、新しいデータで」が一言で頼めるようになります。成果物を残す設計は、ここで効いてきます。

最大の学び ― 「答えるAI」ではなく「資産がたまる基盤」

このPoCを始めたときの目的は「分析の自動化」でした。しかし検証を終えて明確になったのは、目指すべき姿がその先にあることです。

「分析結果を返すAI」は、その場では役に立ちますが、答えはチャットとともに流れていきます。一方、Notebook・Python・レポート・CSV・グラフを毎回成果物として残す仕組みは、使えば使うほど「会社の分析資産」が積み上がります。次の分析は過去の資産の再利用から始まり、分析の品質と速度が組織として向上していく。AIの導入効果を一過性で終わらせないための答えが、ここにあると考えています。

次のPoCで検証すること

今回のPoCで全体構成は固まりました。次のステップでは、実運用に向けて以下を検証します。

  • MCPサーバーの構築と、SageMakerの分析ジョブ(Processing Job)の起動
  • 成果物の自動保存(S3への標準保存、Git(変更履歴の管理システム)との連携)
  • Snowflake・Redshiftなどのデータ基盤との連携によるデータ取得経路の確立
  • ゲートウェイ経由での全社配布

まとめ

「ClaudeがNotebookを直接操作する」という最初の仮説は成立しませんでした。しかし、その検証の過程で「Notebookは実行環境ではなく分析資産である」という気づきを得て、MCPを軸にした現実的なアーキテクチャにたどり着きました。

PoCの価値は、仮説どおりに動くことを確認する点だけでなく、「成立しない道」を早く安く見極め、目指すべき姿を修正できる点にあります。自然言語での分析依頼を、その場限りの回答で終わらせず、企業の資産として蓄積していく——次回のPoCの結果も、本コラムで報告する予定です。