第1回で入口(Chat・Cowork・Code)の話をすると、ほぼ必ず次の質問が来ます。「で、うちの機密データ、社外に出ちゃうんですよね?」。とくに金融・医療・製造の現場では、ここが越えられないと一歩も進みません。

結論から言うと、同じ Claude でも「どの経路で使うか」によって、データの通り道と取り扱いが変わります。自社で契約しているクラウド(AWS・Google Cloud・Azure)の中で動かせば、データを自社の管理範囲から出さずに使える構成が取れる場合があります。今回は、その経路の違いを整理します。

ひとことで言うと:Claude は AWS の Bedrock、Google Cloud の Vertex AI といった「自社で契約済みのクラウドの中」から呼び出せます。この場合、入力データはそのクラウドの自社管理範囲で処理され、社外に切り出さない構成が取りやすい。一方で経路によってはモデル提供元の基盤を通ることもあり、契約上「どこを通るか」は経路ごとに変わります。クラウドは「経路の違い」を踏まえて選ぶのが要点です。

「どこを通るか」で何が変わるのか

AI にデータを渡すとき、気にすべきは2つです。①そのデータがモデルの再学習に使われないか ②データがどの事業者の管理範囲を通るか。①は主要な法人向け経路ではいずれも「学習に使わない」が基本ですが、契約で必ず確認すべき点です。今回の主役は②、「データの通り道」のほうです。

たとえるなら、同じ宅配便でも「自社の倉庫内だけで荷物を動かす」のか「いったん別会社の集配センターを経由する」のかの違いです。中身(モデル)が同じでも、荷物が誰の建物を通るかは、セキュリティ部門にとって決定的に重要です。

3つの経路を整理する

経路提供のかたちデータの通り道(考え方)
AWS Bedrock 経由 AWS のマネージドサービスとして Claude を利用 自社の AWS 環境(リージョン)内で処理する構成が取りやすい。VPC・IAM など既存の AWS 統制をそのまま効かせやすい
Google Cloud Vertex AI 経由 Google Cloud のマネージドサービスとして Claude を利用 自社の Google Cloud 環境内で処理する構成が取りやすい。IAM・VPC Service Controls など既存統制と組み合わせやすい
Azure(Microsoft Foundry)経由 Microsoft Foundry 上で Claude を利用(一般提供済み) 提供形態やリージョンによっては、処理がモデル提供元(Anthropic)側の基盤を通る場合がある。「自社テナント内で完結するか」「対象リージョン(欧州など)で使えるか」は提供条件次第で、要確認
重要:これは「今この瞬間の一般論」です。 各クラウドの提供形態・データ取り扱い・対象リージョンは頻繁に更新されます。「Azure だから必ず外に出る/Bedrock だから絶対に出ない」と固定で覚えないでください。実際の判断は、導入時点の公式ドキュメントと締結する契約(DPA 等)で必ず裏取りしてください。本記事は選定の観点を示すものです。

なぜ「経由するクラウド」で差が出るのか

Claude はモデルを提供する Anthropic と、それを各社のプラットフォーム上で使えるようにするクラウド事業者(AWS・Google・Microsoft)との組み合わせで提供されています。クラウド事業者が自社基盤に組み込む形で提供していれば、データはそのクラウドの管理範囲内で処理しやすい。一方、カタログ上は載っていても実処理が提供元の基盤を経由する形だと、データの通り道が自社テナントの外に伸びることがあります。

つまり「Claude が使えるか」と「データがどこを通るか」は別の問い。前者だけ見て選ぶと、セキュリティ審査の最終段で差し戻される——これが現場で実際に起きる事故です。

選ぶときの実務チェックリスト

クラウド基盤を選定するとき、最低限そろえて確認したい項目です。

  • データの処理場所:自社テナント/契約リージョン内で完結するか。提供元基盤を経由するか
  • リージョン:日本国内(あるいは指定の地域)で処理・保管できるか
  • 学習への不使用:入力・出力がモデルの再学習に使われないと契約で明記されているか
  • 保持期間:ログやプロンプトの保持期間と、ゼロ保持(zero retention)の可否
  • 既存統制との接続:IAM・VPC・監査ログなど、今あるクラウド統制をそのまま効かせられるか
  • 契約主体:誰と何の契約(クラウド事業者/Anthropic/再販事業者)を結ぶことになるか
近道は「すでに使っているクラウドに寄せる」。 自社が AWS 中心なら Bedrock、Google Cloud 中心なら Vertex AI から検討するのが現実的です。既存のアカウント統制・ネットワーク統制・監査の仕組みをそのまま流用できるため、セキュリティ審査が一気に楽になります。新しい経路をゼロから審査するより、慣れた庭で動かすほうが速い。

注意:最新・最上位モデルは「一切残さない」と両立しないことがある

ここでひとつ、見落としがちな落とし穴があります。「データを一切残さない(ゼロ保持)」と「最新・最上位のモデルを使う」は、時にトレードオフになるという点です。

たとえば Claude の最上位モデルである Fable 5(フェイブル5) は、提供の条件として一定期間(30日)のデータ保持が前提になっており、「ゼロ保持(zero retention)」の設定では利用できません。限定提供されている Mythos 5(ミトス5) も同様の扱いです。さらに、こうした最新モデルはまず提供元(Anthropic)の基盤で先行提供され、各クラウド(Bedrock・Vertex AI)に載るタイミングや提供条件が異なることもあります。

出典:Anthropic 公式ドキュメント「Introducing Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」ほか「API and data retention」。原文では “Claude Fable 5 and Claude Mythos 5 carry 30-day data retention and are not available under zero data retention” と明記されています(2026年6月時点)。

つまり、「うちは絶対にゼロ保持。データは一切残させない」と決め切ってしまうと、いちばん賢い最新モデルが使えない場面が出てきます。逆に「どうしても最新モデルの性能が欲しい」なら、一定期間のデータ保持を受け入れるか、機微度の低いデータに限って最新モデルを使うといった割り切りが要ります。

ここも「今この瞬間の条件」です。 どのモデルがどの経路で使えるか、ゼロ保持に対応するか、対象リージョンはどこか——は頻繁に変わります。「最新モデルだから必ず保持が必要/このモデルなら必ずゼロ保持OK」と固定で覚えず、導入時点の公式情報と契約(データ保持・DPA等)で必ず確認してください。本記事は、「最新モデルを使いたい」と「データを残させたくない」がぶつかり得るという観点を示すものです。

「全部入り」を求めすぎない

最後に、よくある落とし穴を1つ。「完璧に外に出さない構成」を求めるあまり、検討が止まるパターンです。実際には、扱うデータの機微度はピンキリ。公開資料の要約に最高機密と同じ統制は要りません。

データを機微度で仕分けし、「一般業務は手軽な経路、機密度の高いものだけ自社クラウド内の厳格な経路」と二段構えにするのが、コストと速度の現実解です。全社一律で一番厳しい基準に合わせる必要はありません。

次回予告。 経路が決まると、最後は「誰と、どんな契約で結ぶか」です。第3回は法人契約——Team と Enterprise の違い(ポリシー・契約・ガバナンス機能)を整理して、シリーズを締めくくります。

まとめ ― 「使えるか」ではなく「どこを通るか」で選ぶ

同じ Claude でも、Bedrock・Vertex AI・Azure ではデータの通り道が変わります。自社で契約済みのクラウドの中から呼び出せば、データを管理範囲の外に出さない構成が取りやすい。大事なのは「Claude が載っているか」ではなく「うちのデータがどこを通るか」。そしてその答えは更新され続けるので、導入時点の公式情報と契約で必ず裏を取る——これを忘れないでください。

このシリーズ(企業導入編・全3回)

  1. 入口を選ぶ ― Chat・Cowork・Code の使い分け
  2. データを外に出さない ― Bedrock・Vertex AI・Azure(この記事)
  3. 法人契約の選び方 ― Team と Enterprise